玄関を入ると農具や大工道具を掛けた土間、艶光りした高い上がり框(かまち)。
土間の奥には煮炊きをする竈(かまど)や五右衛門風呂があり、
田の字に仕切られた部屋の一角には、自在かぎの下がった囲炉裏。
そして家の中に漂うのはまきを焚く香り・・・。
私たちが手に入れたのは、こんな昔ながらの暮らしができる家です。
ここは祖父母が暮らした家で、
同じ町内に住んでいた私はたびたびこの家を訪れました。
厳しく口数の少ない祖父も孫には甘くて、
囲炉裏端でみかんや野菜を潰しては手製のジュースを作ってくれたもの。
明るい祖母は、おいしいぼた餅やカレーをこしらえてくれました。
そういえば、付き合い始めた妻を連れてきたこともありました。
そんな思い出たっぷりの家ですから、できるだけその形を留めたい。
それが私たちの願いでした。
ですから、間取りもそのままに再生。
新たに加えた大黒柱や張り替えた壁にも、
庭に大きく育ったイヌマキや杉の木を使いました。
週末だけのここでの暮らしには、電話もテレビも、そしてガスもありません。
湯を沸かすにもまきを焚いて火を熾(おこ)すのですから、
お茶を飲むにもゆうに20分はかかります。
でもその不便さこそが楽しく、心から癒されると感じるのです。
田舎暮らしが好きな妻は、
畑仕事に精を出したり、手作りの古布小物で家を飾ったり。
私は大工仕事を楽しみ、夕方になると下からじんわりと沸く五右衛門風呂に浸かります。
そうしてふたり、囲炉裏端で語る長い夜。
でも不思議なことに昔ながらの空間で語り合うのは、昔語りではありません。
心に浮かぶのは、わたしたちの未来。
やさしい空間が、なぜかふと素直な気持ちにしてくれるのです。
私たちが毎日をここで暮らすようになるのも、
そう遠い日ではないかもしれません。

タニザキの民家再生で得たもの
●昔ながらの暮らしを楽しむ週末
テレビも電話もガスも水道もない暮らし。地下水を利用し、竈でご飯を炊き、囲炉裏にまきをくべて暖を取り、五右衛門風呂に入る。そんな一見不便とも思える暮らしが私たちの理想でした。趣味で集めていた骨董や古道具もこの家にはマッチして、居場所が見つかった感じです。
●日曜大工にいそしむ時間
趣味は大工仕事。ですから再生してもらった家は、あえて完成させずに引き渡してもらいました。家の庭にあった木を製材してもらった杉板で壁を打ったり、ちゃぶ台や物入れを作ったり。休みのたびに少しづつ作って暮らしを整えていく楽しみを味わっています。
●畑仕事が疲れを忘れさせる
生ゴミを捨てることに抵抗を感じ、エコライフを送りたいと始めた家庭菜園。鹿児島市内でも野菜作りをしてきましたが、ここでの畑仕事はなぜか疲れ知らず。土とともに気持ちのいい時をすごしています。
●じんわり沸く五右衛門風呂は最高
地下水を入れ、まきを焚いて沸かす五右衛門風呂。地下水は夏は冷たく、冬は温かいのです。底板を踏んで湯船に入ると、じんわり下から温もってくる感覚は最高です。
●囲炉裏を囲んで夫婦の語らい
夜になると夫婦ふたりで囲炉裏端の夕食。鍋をつついたり、焼き物をしたり。置き火で燗をつける焼酎が、これまた最高です。物音もなく静かな夜は、ふたりで話しこむことが多くなりました。

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